言葉の大切さ
突然ですが、私がレッスンの講師をする上で、ピアノの技術面以外で「大切にしている言葉」をご紹介します。
平凡な教師は言って聞かせる。
良い教師は説明する。
優秀な教師はやってみせる。
しかし最高の教師は、子どもの心に火をつける。
ウィリアム・アーサー・ウォード(教育学者・1921-1994)
ミナトには、様々な生徒が在籍していらっしゃいます。0歳から80歳代まで、子どもも大人も、初心者も経験者も、どの生徒も楽器を上達したい!という希望を持っています。
私たちは、音楽を通してそんな多くの方々の人生に関わることのできる、素晴らしい仕事に携わっています。レッスンのご希望は人それぞれですが、一人でも多くの方に、一生の趣味として音楽を心から楽しんで、幸せになっていただきたいですね。
しかし日によっては、練習を全くしてこなかったり、眠そうにしながら来たり、疲れた様子だったり、落ち込んでいたり、全くやる気が無かったり、(悪気はなく)楽譜すら持ってこなかったり…
とてもレッスンを受ける態度ではない!と思ってしまうような生徒もいますが、私は最後には「楽しかった!」と笑顔で帰ってもらうことを常に心がけています。
限られたレッスン時間内で「生徒の心に火をつける」ためには、どうしたら良いのでしょうか?
全ての鍵は、講師の言葉のかけ方にあると思います。
楽器のレッスンだとしても、弾いて見せるだけでは足りず、継続して前向きにレッスンに取り組むための声かけが必要です。
挨拶は明るく笑顔で!
言うまでもないことですが、レッスンの最初と最後は、「○○ちゃん、こんにちは!」「〇〇さん、こんばんは!」「さようなら!」と、常に笑顔で明るく元気な挨拶をして生徒を迎えましょう。
レッスンの際には毎回、一貫した明るい態度と表情で迎えることが重要です。
必ず目を合わせること、声の大きさやトーンにも気を配りましょう。毎回のレッスンの際に同じ調子で第一声を発することで、生徒も安心してレッスンに入ることができ、レッスンへ気持ちを切り替えることができます。
ピグマリオン効果とは?
皆さんは「ピグマリオン効果」という言葉をご存じでしょうか?
ピグマリオン効果とは、他者からの期待を受けることで、学習等の成果を出すことができる効果のことです。「教師期待効果」とも呼ばれます。
レッスンの場合にも当てはまります。
私たちが生徒の能力を信じて期待し続けてレッスンを実施すれば、期待に応えて能力が伸びるようになるのです。「この子には言っても分からないだろう」「この人には無理」等と、生徒の成長の可能性を私たちが諦めてしまったら、そこまでです。
レッスンの最初もしくは最中に、目の前の生徒に今日どんなことをできるようにして帰すか、講師自身で具体的にイメージを持ちましょう。
ここまで譜読みを終わらせる、家での練習方法を具体的に生徒に考えさせる、このテンポで粒を揃えて弾けるようにする、この部分を表情豊かに歌えるようにする、等。
理想のイメージがあれば、その理想に向けての言葉をかけることができ、より成長のチャンスが作られます。
しかし、気を付けたいことがあります。
それは、理想のイメージを持ちつつも、「今、この場でできなくてもよい」という心の余裕も持たなければならないことです。
目の前の生徒が理想よりもできていない時、講師が焦ってしまって「何とかしなければ」と、圧迫感のある言葉をかけてしまうことがあるかもしれません。
理想を求めてばかりいると、生徒のできない部分ばかりが気になってしまいます。
だからと言って、生徒を責めるようなことがあってはなりません。
生徒の出来があまり良くなかったり前向きに取り組めていない様子の時、「何度も言っているのに、一体なぜ弾けないの?!」と思った時は、大抵はその生徒にとって講師の言葉かけが不足している場合が多いです。
講師の言っていることが頭では分かっていてもできないのか、講師の言っていること自体が分からないのか、よく分析して根気よく伝え直す必要があります。何度言っても反応がイマイチな生徒でも、一度弾いて見せると、意外にもすんなりとできてしまう場合があります。
他の生徒と比べたり、過去の自分と比べたりせずに、目の前の生徒の現状に向き合い、どうすれば生徒の上達につながるかを細かいステップで検討しましょう。
冷静に、心のゆとりをもって適切な言葉をかけ、生徒の成長を見極めて待てると良いですね。
すべての基本!「ほめる」
大人でも子どもでも、どんなに小さなことでもほめられることは嬉しいものです。
ほめ言葉は他人からの承認でもあり、レッスンを前向きに頑張るための力になります。
私自身のレッスンを振り返ってみると、レッスン中の言葉の半分ほどは、ほめているかもしれません。
励ました後に、ほめる。
問いかけた後に、ほめる。
何か言葉かけをした後には、「できた!」「前より良くなった!」「すごい!」等のポジティブなほめる言葉に繋げ、完結させるようにしましょう。
ただし、むやみにほめれば良いというわけではありません。適切に使わなければ、逆効果になってしまうこともあり得ます。
ほめる際に気を付けるべきことがあります。
- すぐにほめる
行動心理学では、60秒以内にほめることが効果的とされているそうです。良い部分に気付いたら、すぐにその場で、言葉で伝えるようにしましょう。 - 具体的にほめる
どの部分が良かったのか、具体的に伝えるようにしましょう。理由も合わせて伝えるようにしましょう。 - 結果だけでなく、「過程」をほめる
前回のレッスンと本日のレッスンの様子を比べて、成長の度合いをほめるようにしましょう。できない部分が多い生徒の方が、ほめやすくなります。 - 心からほめる
講師の言葉かけによって生徒が努力しその部分を克服したのだとしたら、これほど嬉しいことはありません。生徒の成長をともに喜びましょう。
(私の場合、もしかしたら生徒本人以上に喜んでいるかもしれません) - 人から聞いたほめ言葉を、本人に伝える
人づてにほめられている話を聞くと、効果が更に増すそうです。親御さんから家で練習を頑張った様子等を聞いたら、すかさず伝えるようにしましょう。
画家ゴッホの言葉に「美しい景色を探すな。景色の中に美しいものを見つけるんだ。」という名言があります。
私たちも、目の前の生徒に向き合い、常に良いところ・良くなったところを探して、生徒が前向きに楽器のレッスンを継続するきっかけを与え続ける存在でありたいですね。
「叱る」
叱ることも講師の重要な役目です。しかし、ほめる言葉よりも慎重に使う必要があります。
教室内で即刻厳しく叱る必要があるのは、以下の場合と考えます。
- 危険なことをした場合、人を傷つける行動をした場合
- 楽器を大切に扱わなかった場合
- 教室の規則を守らなかった場合
(時間通りに出入りしない、部屋のドアを開けている時に音出しする、等)
上記3点に関しては、小さい子どもでも、度合を見極めてすぐに叱ります。
だらだらとお説教したりせずにその場で短時間で叱り、すぐにレッスンへと切り替えると引きずらずに済みますし、効果的です。
未だ言葉を発することのできないリトミックの乳幼児の生徒にも、良いことと悪いこと・危ないことは区別して、しっかりと伝えます。
楽器の扱い方や大切さ、価値については、親御さんにもよくご理解いただく必要がありますので、講師が伝えなければなりません。
それ以外のこと…演奏技術の未熟さや練習の不十分さなどについては、まずは落ち着いて冷静になってから、事の重大さに合わせて厳しさを変化させましょう。
間を空けて普段より低く落ち着いた声でゆっくりと話すと、重要なことを言っていると気付かせることができ、よく聞いてくれます。
不要な叱責は、生徒の心の傷となり、一生に渡って続くこともあり得ます。決して不用意に人格を否定するようなことがあってはいけません。その一言で音楽や楽器を嫌いにさせてしまうようなことがあれば、講師としてとても残念なことです。
叱る場合、講師の立場として、その生徒への期待や改善する見込みがある場合が多いかと思います。
あくまでも生徒の存在を尊重しつつ、結果や行動に対してのみを叱り、必ずすぐに切り替えて次のやる気に繋がるようにしましょう。
「問いかける」
講師から言われたことを、言われた通りに弾けるようになることは、まずはレッスンの成果の第一歩ですが、それだけがゴールとなるわけではありません。
楽譜に書かれていることを自分の力で読み取り、自分の出した音をよく聴き、イメージした音を鳴らせているか確認しながら、今後は自発的に演奏に反映する力をつけてもらうことが理想です。
生徒の皆さんには、自分で考え、それを演奏に反映する力をつけてもらいたいものです。
では、どうすれば考える力を育てることができるのでしょうか。
そこで必要なのが「問いかけ」です。
講師からの問いかけによる答えは、講師の押し付けではなく、生徒が考えて出した答えです。
レッスン中に問いかけると、答えが出るまでに時間がかかります。しかし、問いかけたことにより、生徒は自ら考え、学び、次の弾き方や行動を変えようとするようになります。
そのため、レッスンでは問いかけに対し、生徒にもたくさん話してもらいます。温かく話しやすい雰囲気を作り(決して”緩んだ雰囲気”ではありません)、発言しやすいようにします。
講師が言いたいことや答えを生徒に言わせるように、誘導していきます。生徒も自分の言葉で発したことには、責任を持ってしっかりと取り組もうとします。
また、うまくいかなかった部分をもう一度弾かせる際に、今からどの部分をどう注意して弾くのか、直すにはどう気を付けたら良いかを、一通り言わせてしっかりと意識してから弾かせるのも一つの方法です。
そうして楽器の演奏や練習に取り組む姿勢に変化が見られれば、講師としてとても嬉しいことです。
音楽を楽しむ心を忘れずに!
何年にも渡り同じ生徒を継続して担当しレッスンをさせていただく中で、楽器のレッスンをすることは「人間としても成長する過程」を見守ることだな、と感じることが多々あります。
子どもも大人も、楽しいことであれば継続したくなるものですし、やる気も湧きます。また、レッスンの内容に、お月謝と同等かそれ以上の価値や質を見いだすことができれば、レッスンを何度でも受講したくなり続けたくなるものです。結果、上達を実感できるようになるのです。
そのためには、生徒の進歩の速度や性格、楽器のレッスンからその生徒が得られるものが何か、その生徒はレッスンに何を求めているのか、期待しているのか等を把握し、尊重してレッスンを進めていく必要があります。
楽器演奏の習得は、一朝一夕に成し遂げられるものではありません。生徒ご本人とも親御さんとも信頼関係を構築し、「音楽が好き!先生が好き!レッスンが楽しい!長く続けたい!」と思っていただくことが、上達の秘訣でもあります。
私たち講師も人間ですので、体調の悪い時や機嫌の悪い時もあるかもしれません。しかし、週に1回のレッスンを楽しみにいらして下さる生徒にとって、それは関係のないことです。
生徒に言葉をかける際は、いつも一貫した態度と温かさをもって、毅然とした姿勢で誠実に音楽の素晴らしさをお伝えするべきです。決して、なれ合ったり”雑談”にはならないようにする必要があります。
楽器のレッスンを通して得られることは、演奏技術の習得に留まらず、数多くあります。根気強く何か一つのことを続けることや、自分の現状に甘んじることなく練習を積み重ねること、自分で考えて工夫すること、等々。それらは、長い人生を生き抜いていくためにも必要な力となるはずです。
そう考えると、楽器のレッスンを継続していただくことは、とても大きな意味を持っているなと思うのです。
ミナトの素晴らしい先生方とご一緒に、講師としても真摯に学び続けて自分を磨きながら、そういったことを多くの方に伝え、ミナトのレッスンで音楽を好きになってくれる人口を増やしていけたら、とても嬉しく思います。
上記お伝えしましたことは私が言うまでもなく、既に実践して下さっている先生方も多いことと思いますが、これからもご一緒に精進できればと思います!
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